シリーズで紹介している、今まで当塾に在籍していた学習障害のあった生徒さん達の指導事例集です。
当塾は学習障害専門塾ではありません。普通の個別指導塾です。そして私も専門家でもなんでもないフッツーのおばさん塾長です。
そんなフツーの塾のフツーの先生達が悪戦苦闘・試行錯誤しながら、それぞれ個性の違う学習障害の子達と向き合った指導事例です。
これまでの記事はこちらをご覧ください↓↓↓
そして今回は中学3年生Dちゃん
Dちゃんは厳密に言うと学習障害などの専門医に診てもらったことがないので、学習障害の有無は不明です。
なぜ今回記事にしたかというと、小学校で特別支援学級に在籍していたからです。
そして、指導を経た上で、私も彼女には何かしらの学習障害があるように思いました。
また、今回のケースはご両親の理解も得られていない事例です。
【出会い】
私とDちゃんが出会ったのは私がまだ講師だった頃で、彼女が中学3年生の時でした。
明るくてよく笑う良い子でした。
ただ、会話が時々なりたたない事があり、それが語彙力のせいなのか読解力のせいかわかりませんでした。
彼女の特徴としては、わからない話でも無難な相槌をうって会話を続け、もし相槌がヘンテコな返しをして、場の空気が「え?」となったり、「なに言ってんの?」というふうにツッコミをいれられるととにかく笑ってごまかすか、「なんちゃって」「あ、そうか」「ウチ、バカだからー」とごまかしていました。
実はこれが彼女の学習に長年大きな弊害となっていたのです。
【いざ、授業】
授業開始5分前に、「あと五分したら教室に来てね」と彼女に伝え、私が授業準備を教室でしていると、時間になっても彼女が来ません。
どうしたのか様子を見に行くと、「お腹が痛かった」と言っていました。
もう大丈夫というので、授業を開始。
数学の問題が、ことごとく計算ミスによる失点だらけでした。
簡単な足し算引き算も間違えていたので、その日の宿題は計算問題を多めに出しました。
その次の授業、また彼女は授業開始時刻になっても教室に来ません。塾にはいるのです。別に友達と遊んでいるわけでもありません。「どうしたの?お腹痛いの?」と様子を見に行くと、「あ、もう時間か、うっかりしてました。すいませーん!」と元気に返答が返ってきたので、なんの疑問も持たずに授業を行いました。
前回の宿題をみると、すべてやってあり、満点です。今回は授業の最初に簡単な計算テストをすることにしました。結果は半分以下の得点。
本人曰く、「テストや塾だと緊張してしまう」とのこと。
それにしても宿題とのギャップがありすぎます。
念のため、宿題と全く同じプリントを時間制限なしでやってもらいました。
結果半分以下の得点。。。
疑いたくはありませんが、「宿題答えみた?」ときくと、「みていない。この時はできた。」という返答。
本来1週間空いてしまう授業で、宿題は解く→答え合わせ→間違い直し→それでもわからない問題の質問を次回の授業でする
というリズムが理想です。そうでないと解きっぱなしになってしまい、自分で間違いを見直し、理解を定着させられないからです。まして、彼女は中学3年生。受験にむけて時間がありません。
時間がない中本意ではありませんが今回は解答を渡さずに宿題をだしました。
その次の授業で、彼女はまた教室に時間を過ぎてもやってきませんでした。
今回は「目が悪くて時計が見えなかった」と言っていました。
さすがにおかしいです。
もしかして、私が嫌なのか、他になにか悩み事があるのか、色々気になりました。
そして、この時は宿題すら持ってきていませんでした。その理由を「やったけれど忘れた」と言いました。
無い物はしょうがないので、新たな単元を勉強することに。
関数を学習しました。説明も分かったというので、さっそく問題を解いていきます。しかし、また半分くらいの正答率です。まったくわかっていなければ半分はとれません。
途中式をみてみると、どうやら目盛りの数え間違いが原因のようでした。
慌てないように伝え、また別の問題へ。それでも見間違い、数え間違いはなおりません。
だんだんうっかりミスではないような違和感を感じ、パターンをみると、大きな数字になると間違えています。
もしや。。。
ホワイトボードに大きな数直線を書いて、彼女に目盛りを数えてもらいました。
なんと6以上の数になると数えられなかったのです。
それからが大変です。
- 6以上の数が数えられない
- 文章から立式できない(200円のリンゴを3つの値段→200+3とする)
- 少数・分数を知らない
- 時計の読み方がわからない
等々出るわ出るわ色々な問題が!!!
急遽、彼女にじっくり話を聞くことにしました。
D:「ウチ、ほんとばかだねー。あはは」
私:「いや、そんなこと言わなくていい。とにかくなんとかしなきゃいけないから、本当のことを言って。原因を知りたいの。どうして?」
D:「お母さん中卒だから」
私:「それは全く関係ないよ。小学校で分数・少数は習ったでしょ?」
D:「小学校特別支援学級だったからやってない」
当時まだただの講師だった私は初めてこの時、特別支援学級では小学校6年間で学習しなければならないものをやらせずに子供を卒業させてしまうのだということを知りました。
Dちゃんは小学校の特別支援学級で必要な教育を十分に受けず、卒業して中学校の普通級に進学したのです。
どうりで時計もよめない。数も数えられないわけです。
しかも、彼女はごまかす事を覚えてしまっていました。
たぶんそのまま中学でも特別支援学級にいたらまだフォローがあったかもしれませんが、普通級ではフォローはありません。友達や先生達にばれないように、もしくはできないことを怒られないように自然とごまかすことが上手になってしまったのかもしれません。
彼女は小学校卒業以来、復習のチャンスを失ってしまったのです。
まさに、「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」
【大人の責任】
実はDさんを私が担当したのは中学3年生になってからですが、彼女は当塾に中学1年生から在籍していました。
なぜ前の講師はそれに気づけなかったのだろうという疑問がわきました。確かに彼女に色々な言い訳やごまかしをされていたら気付くのは難しかったかもしれません。しかし、当塾に在籍している2年間に彼女は2人の先生が数学を担当していて、どちらの先生も気づいていませんでした。
当時の塾長に相談したところ、「二人とも(前任の講師達)やる気ないからねー。」という返事。
こりゃだめだ。と正直思いました。
当時の塾は言葉が悪いですが、「ゆるい」塾でした。
塾長先生はとにかく生徒の自主性に任せる方針で、細かいことは何も言わない方でした。休んでもいくらでも振替授業をしていましたし、講師の方達にも一切指導はしていませんでした。その結果・・・
<生徒>
- 遅刻する
- 連絡なしに当日休む
- 宿題やらない
- 塾のフリースペースでだらだらするだけで教室にこない
<講師>
- やる気ない
- 生徒と世間話だけで授業を終える
- 学習カルテをいい加減に記入する
- 出勤簿をごまかす
- 授業中電話にでる
- お菓子を食べながら授業をする
一部の問題ある生徒や講師は↑こんな状態でした。
もちろん一生懸命やる生徒や先生もたくさんいましたが、残念ながらDさんを過去に担当した講師は問題講師でした。
Dさんと真正面から向き合っていれば、もっと早い段階で問題に気づけたと思います。
講師として申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
丁度その時、塾長がお辞めになることになり、私に次の塾長の話が来ました。
当時私は在籍2年で一番下っ端だったので、塾長になるなんて思ってもいなかったのですが、Dさんのことも気になっていましたし、この仕事が楽しく感じていたので、お引き受けすることにしました。
<さっそく保護者面談>
とにかく塾で週に90分のみの授業ではDさんの学習を受験までにもっていく事は難しいです。6以上の数を数えたり、時計を読むのは毎日練習してほしかったので、ご家庭の協力が必要不可欠です。
さっそく保護者面談をしてお母様に事実を伝えることにしました。
中学3年生の娘が6以上の数を数えられないと聞いたらどう思うだろうか。。。と、心配しながらお伝えしたところ。
「はあ。」
と返ってきました。
落胆のため息でも、「どういうことだコラー!」という意味の「はあ?」でもなく、
「ふーん。それで?」のような「はあ。」でした。
Dさんが中学3年生まで数が数えられない原因がもっと分かった気がしました。
無気力な講師や学校の先生に加え、別の要因は親の無関心です。
お母さんはさらに「塾に任せるんでお願いします」
とだけ言ってお帰りになりました。
Dさんのこの悲惨な状況は完全に「大人の責任」だと思いました。
【1からスタート】
とにかくご家庭の協力が得られないという非常に厳しい状態かつ塾長なりたての右も左もわからない状態でDさんの学習指導スタート!
だらけきった生徒や講師の全面改革を進めながら、自分も新しいことを勉強しつつDさん含めその他多くの問題に取り組み始めた私はどんどん痩せていきました(笑)
塾マネージメントの話はいつかまたできればと思います。
とにかく毎日自習にきてもらうようにしました。
そして、彼女のメンタルの改革をする必要があったので、
- 分数・少数を知らないのは大人のせいであって、Dさんのせいじゃない
- これから私と1から勉強していくので、大丈夫。そのかわり、言われたことを確実にするのと、嘘やごまかしをしないこと
- わからないものは必ずわからないとすぐ言ってほしい
ということを伝えました。
塾にいる間は、ひたすら時計を見て練習、授業の開始10分は暗算練習(口頭で7をどんどん足していくなど)、それから小学生の範囲の復習を30分して、残りを中学三年生の範囲をやっていきました。
長年ごまかすことを習慣としていたDさんだったので、私と約束をしていても自然と嘘やごまかしを言ってしまうことがありました。その都度、「ごまかしだめ!」と指摘して、根気よく問題を解いていきました。
Dさんの「ごまかし」名言集
- 弟に宿題をなくされた
- 犬に宿題を食べられた
- 頭の良い友達が宿題をやってしまった
- 目が悪くて時計がみえなかった
- お腹が痛い
- 頭が痛い
- 緊張していた
- 学校で盗難が流行っていて宿題を盗まれた
何度言っても「ごまかし」をされて、心が折れそうになったこともあります。そのうち宇宙人にさらわれたといって塾に来なくなるのではとも思いましたが、逆にこれだけ言い訳を考えられるのならば頭はいいぞ!と思う事にしました。
結局「自習」という名の授業をがっつりほぼ毎日やってしまいました。
そのうちに確かになにかしら学習障害がありそうな点も感じました。
小学校で特別支援学級にいたことは納得です。
ただ、こんなに中学で大変な思いをするのであれば特別支援学級にも色々課題はあるとおもいました。
結局彼女は時計も少数も分数もある程度できるようになりましたが、中学の内申点が低かったため、それに合わせたが高校選びをすることになりました。
そして希望の公立高校普通級に通いました。
その後も彼女が友達や先生の顔色をみてごまかしてしまうクセはなかなかなおらなかったようで、卒塾後も色々な問題が起きました。
- 友達に好きでもない子とのキス写真をとるように言われ、その写メが学校中に出回る
- 携帯を勝手に使われ、個人情報も全て流れ、学校で問題になる。(塾のメールにも彼女の名前の迷惑メールが大量にきました。)
察するに周りの大人は彼女のことをそこまで理解してフォローしていなかったでしょう。(親も含め)
卒塾したあと一度高校の制服を見せに遊びに来てくれましたが、「うちいろいろトラブルあってー。やばいっすよほんとに―。」と笑っていました。迷惑メールの事も写真の事も大丈夫なのか、きをつけないとだめだということは伝えましたが、それ以来会っていません。
子供を守るのは大人の責任です。
今の時代に子供が勝手に育つと過信してはいけません。
インターネットの普及でどんなトラブルに巻き込まれるかわかりません。
そんなとき、子供が安心して相談できる大人が増えると良いと思います。
色々な課題を与えられた経験でした。