当塾に在籍していた学習障害のある子達の指導事例集第三回。
今までの事例集は下記をご覧ください↓
何度も言ってしまいますが、当塾は普通の個別指導塾で、学習障害の専門塾でもなんでもありませんし、私も専門家ではございません。
そんな私が講師の先生方と相談を重ねて、色々試行錯誤しながら、向かい合ってきた学習障害のある子達の指導体験を今回も紹介いたします。
今回は、「なにかしらの学習障害」です。
【C君入塾】
C君は小学3年生の時に入塾しました。
やんちゃに騒ぐことはなくても、時々発する言葉が爆発的に面白い、ユニークな子でした。
芸術家肌で、学校で描く絵はよく展示されるような子でした。
ただ、学校の授業中集中していないことが多かったのと、たまに自分の世界に入りすぎて(?)名前を呼ばれても反応しないこともありました。
そして診断は
「なにかしらの学習障害」
ええ?
そんなふわっとした診断あるのですか?と思いましたが、お母様から見せてもらった診断書にははっきりと「なにかしらの学習障害」と記載されていました。
同時にC君の弟も一緒に見てもらったところ、弟は「ADHD」と診断されていました。
塾では
- 忘れ物が多い(テキスト・筆箱等)
- 宿題のやり忘れが多い
- 途中式を書かない(書いてと言われると書くが、言わないと忘れる)
学校のテストでは60点台~80点台というかんじでした。
小学校の同じクラスの子が塾にいたのですが、C君は距離をとられていました。
なぜそうするのか他の子に聞くと、「C君が物を盗む。自分の鉛筆がC君の筆箱に入っていた」というのです。
C君に聞くと、「自分の物と勘違いして筆箱に入れた。同じものを持っている」とのこと。
ただ、そういった事が時々あったのと、発言が突飛なことがあったので「嘘つき」と疑われてしまっていました。
C君はADHDではありませんが、ADHDの子の特徴として、考えが1ヵ所に集中しやすいことがあるそうです。もしかしたら、C君は友達の鉛筆が机の上に出ていて、「鉛筆」→「筆箱にしまう」ということのみに集中してしまい、「自分の物かどうか」というところにまで考えがおよばなかったのかもしれません。(よくはわかりませんが)
小学校のクラス内では少しいじめもあったようなので、彼は弟や弟の友達とばかり遊んでいました。
【中学生になって】
中学生になりたての頃、彼はとても希望に満ち溢れていました。制服を見せに授業のない日でも塾に来たり、自習をがんばったりしていました。
ところが、中学校でさらにひどいいじめにあいました。
特に彼のいたクラスは荒れている子が多く、学校にスカジャンを来た親がバイクで子供を堂々遅刻した時間に送って来たり、SNSで友達のウソの噂話を拡散し、それを追究されると過呼吸のフリをして倒れる女子や友達と仲のいいふりをして、友達の大切なものをトイレに流す子など。。。
何度も夜まで学校でクラス全体の保護者との話し合いも開かれ、とうとう担任の先生も泣いたりで、結局お辞めになってしまったそうです。
C君も自分より体の大きい子に暴力を振るわれ、メガネが何度も壊されていました。
C君の偉い所は、本当は強いのに(柔道得意)「やり返したら奴らと同じレベルになる」と言って、一切やりかえしませんでした。(心が男前なんです!)
お母さんにも「心配をかけたくない」と一切いじめられていることはいっていませんでした。(心が男前なんです!)
途中までがんばっていたC君でしたが、目に見えて成績が下がっていきました。中学1年生最初の数学のテストも9割だったのが、2割まで落ち込みました。
忘れ物も前よりもひどくなり、呼びかけへの反応もどんどん鈍くなっていきました。
友達の話だと、学校では遅刻が多く、少しでも先生に注意されたり、皆に笑われるとすぐ保健室へ行って寝てしまう。授業中も堂々と寝ていて、部活もほとんど出ていない状態だったそうです。
また、この頃C君の家庭環境も変化があり、母子家庭だったのですが、お母様に再婚話があがっていました。そしてC君はそれを良く思っていませんでした。精神的に不安定だったかもしれません。
内申点が非常に心配でした。
神奈川県の公立中学校では、基本的に提出物をしっかりやって期限内に提出していれば「3」、そして授業態度が意欲的で「4」、さらにテストの結果も良いと「5」という感じです。ですからテストの結果が良くなくても「4」以上は結構取りやすいです。
しかし、C君は提出物がまず出せません。忘れてしまうのです。そして授業は参加していないか、寝ているので意欲はないとみなされます。テスト結果も悪いです。案の定内申点は「1」か「2」になってしまいました。
美術も描く絵は何度も展示されているのに「2」。おそらく提出期限が守られていない上に、テストの点数が悪かったのでしょう。
このままでは大変だと思い、色々試みました。
①中学の成績のつけ方と高校入試のシステムや何をしなければいけないか本人に直接説明する
子供は「知らなかった。言われればやったのに。」ということが多いので、なぜ成績が「3」以上にならないかなどの説明を本人に説明しました。しかし、すぐに忘れてしまうので、あまり効果はありませんでした。
②厳しく叱る
叱ると言っても「なんでできないんだ!」みたいな叱り方ではなく、忘れ物をしたら取りに戻らせる。遅刻をしたら居残り勉強をするなど。そしてお説教もちゃんとしました。しかし、数秒後には忘れてケロリとしていて、効果はありませんでした。
③褒めまくる
前回の自閉症の子の記事でも紹介したように、その子の良い所をとにかく見つけて褒めまくりました。これは小学校の頃からやっていましたが、中学で成績が落ちてからはより意識しました。しかし、その時は嬉しそうでしたが、自分の出来た事の記憶がすぐになくなるようであまり成績に効果はありませんでした。
④情に訴える
お母さんがC君の塾代に払っている金額や、その金額を稼ぐにはどのぐらいの時間働かなければならないか、親の苦労を具体的に説明し、情に訴えました。その時は目が潤んでいましたが、数分後ケロリで効果はありませんでした。
とにかく何をやっても忘れてしまい、効果がでませんでした。もうこうなったら奥の手です。
せめて提出物をしっかり出す作戦
学校の授業を一切聞いていない、塾の宿題も忘れる(来ることも忘れる)テストの点数が伸びないならば、提出物をしっかりやるしかありません。
塾の今まで使っていた教材はひとまずお休みし、学校の提出物を塾でやることにしました。学校のワークやプリントを塾で文句なしの状態に仕上げ、あとは提出するだけ!ということにすれば、だいぶ楽になるだろうと思いました。
【提出物】
提出物はただやって、答え合わせをするだけでいいものもあれば、色を分けたりなどの工夫をしなければいけないものもあります。
C君の場合は提出物自体を無くしてしまう事も多かったので、まず学校の提出物を塾に持ってこさせ、(忘れてきたら取りに帰らせました)毎回全てのコピーをとります。
こうすれば、失くしてもコピーを提出すればよいので、安心です。
そして一通り問題を解き、答え合わせをして、間違えた問題は赤で正しい答えを書き、さらに別の紙に解き直しをさせ、問題に添付します。また、なぜ間違えたのかの理由を書いたり(計算ミスをした 等)、教科書にある似た問題などを探してそれも解いた紙を添付しました。カラーペンを用意して、色分けもさせて、見やすいように工夫しました。
これは本当に大変でした。
普段学校の宿題のわからない所の質問等は受けますが、1からすべて手伝うことはしません。でも、この作業をすることで、「提出物とはここまで丁寧にする必要があるのだ」と学んでほしかったのです。
これで、意欲関心が低く、テストの点数が悪くても「3」以上になるはずです!
ところが。。。
C君まさかの提出せず!
C君に提出日も聞いていたので、何日も前からずっと「〇日提出だからね!」と言っていたのですが、まさかの提出せずでした。
しかも、「提出した?」ときいたら「した!」と言っていたのです。
彼曰く、「提出した記憶はあったんだけど。。。」ということでした。
おそるべし!なにかしらの学習障害!
いや、これが「なにかしらの学習障害」のせいなのか、彼の性格の問題なのかわかりませんが、この時ばかりは全身の力が抜けてへにゃへにゃ~と崩れました。
【結局】
C君には何を試みても目に見える効果はありませんでした。
ですから、引き続き提出物を塾でみながら、提出できたときは褒めるというスタンスでなんとか高校入試までもっていきました。
しかし、以前の記事で紹介したように、学校の先生が協力的でなく、私立の受験校を選べなかった彼に、「私立を受けない」と紙に書かせ、ハンコをおさせたのです。
本来ならば、私立選びを協力するのが学校の役目だと思います。まして、学校は彼の学習障害のことも知っていました。公立を受験する子が私立を受けないメリットはありません。
なんとか公立高校に受かったからよかったものの、この時は中学校に落胆しました。
高校入試間際の頃も願書を提出したまま学校に戻ってくる道を忘れて、時間までに戻らず、学校中大騒ぎで探すことになったり、入試直前に利き腕を骨折するなど(遊んでいて)、色々大変でした。
それでも私は彼の良いところをほめ続けて「大好き」「信じている」「頑張れ」「いつでも頼れ」とありとあらゆる励ましをしました。
自閉症の子の記事の後半で紹介したように励ましや、応援を言葉にすることは本当に大切だと思うからです。
C君はその後工業高校に進み、今もしょっちゅう塾に遊びに来てくれます。
中学の時よりも楽しそうで、危険物取扱の免許や色々な資格を次々取得しているそうです。部活にも積極的に参加しています。
今もしょっちゅう遊びに来てくれるのは、大変な中でも「C君のことが大好き」「C君の事を真剣に考えている」という事をちゃんと伝え続けた結果だと思っています。
塾の前日にも「明日塾がある」ということと「塾にもってこなければいけないもの」を電話連絡し、お母様とも面接を重ね、私なりに調べた学習障害についての資料や、学校の協力の仰ぎ方、(学校に申請するフォームがある)などをお渡ししたり等、最終的に成績を上げるという目標から提出物を提出させるというところまで目標を下げることになってしまいましたが、やれることは一生懸命やったつもりです。
ただ、知的障害の子や自閉症の子に試したことに少しは効果があったこともあったので、今回もなんとかなるかもと思っていたのは甘かったです。学習障害やそれぞれの個性に合わせた教育が本当に難しいと痛感しました。もっと別の塾で別の先生なら違う効果があったかもしれません。
本当に答えがまだみつかりません。
ただ、彼が今色々な資格を取れているということは、資格に興味があったからだと思います。興味があれば勉強もできるということだとおもいます。好きな事って大人でも無心にがんばれますよね。
そこにヒントがあるような気がします。
もっと子供たちが勉強にやりがいを感じられるようにがんばります。